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宮沢賢治 銀河鐵道の夜一 午後の授業 「ではみなさん、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐた、このぼんやりと白いものが何かご承知ですか。」 先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の圖の、上から下へ白くけぶつた銀河帶のやうなところを指
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幸福の王子The Happy Prince 町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。 王子の像は全体を薄い純金で覆われ、 目は二つの輝くサファイアで、 王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。 王子は
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芥川龍之介禅智内供(ぜんちないぐ)の鼻と云えば、池(いけ)の尾(お)で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇(うわくちびる)の上から顋(あご)の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰(ちょうづ)めのような物が、ぶらりと顔のま
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最後の一枚の葉The Last Leaf ワシントン・スクエア西にある小地区は、 道路が狂ったように入り組んでおり、 「プレース」と呼ばれる区域に小さく分かれておりました。 この「プレース」は不可思議な角度と曲線を描いており、 一、二回自分自身と交
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夏目漱石 坊っちゃん一 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもな
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夏目漱石 夢十夜第一夜 こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭(りんかく)の柔(やわ)らかな瓜実(うりざね)顔(がお)をその中に横たえている。真白
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田山花袋一 小石川の切支丹坂(きりしたんざか)から極楽水(ごくらくすい)に出る道のだらだら坂を下りようとして渠(かれ)は考えた。「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々
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太宰治一 朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、 「あ」 と幽(かす)かな叫び声をお挙げになった。 「髪の毛?」 スウプに何か、イヤなものでも入っていたのかしら、と思った。 「いいえ」 お母さまは、何事も無かったように、また