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江戸川乱歩 赤いカブトムシ1 あるにちよう日のごご、丹下(たんげ)サト子ちゃんと、木村(きむら)ミドリちゃんと、野崎(のざき)サユリちゃんの三人が、友だちのところへあそびに行ったかえりに、世田谷(せたがや)区のさびしい町を、手をつないで歩いていました。三人とも、
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江戸川乱歩 赤い部屋異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々(わざわざ)其為(そのため)にしつらえた「赤い部屋」の、緋色(ひいろ)の天鵞絨(びろうど)で張った深い肘掛椅子に凭(もた)れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語
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江戸川乱歩 一枚の切符上 「イヤ、僕も多少は知っているさ。あれは先ず、近来の珍事だったからな。世間はあの噂で持切っている。が、多分君程詳敷(くわし)くはないんだ。少し話さないか」 一人の青年紳士が、こういって、赤い血の滴(したた)る肉の切れを口へ持って行った
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江戸川乱歩 恐ろしき錯誤「勝ったぞ、勝ったぞ、勝ったぞ……」 北川(きたがわ)氏の頭の中には、勝ったという意識だけが、風車の様に旋転(せんてん)していた。他のことは何も思わなかった。 彼は今、どこを歩いているのやら、どこへ行こうとしているのやら、まるで知らなか
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江戸川乱歩 怪奇四十面相二十面相の改名 「透明怪人」の事件で、名探偵、明智小五郎(あけちこごろう)に、正体を見やぶられた怪人二十面相は、そのまま警視庁の留置場に入れられ、いちおう、とりしらべをうけたのち、未決囚(みけつしゅう)として東京都内のI拘置所(こうちしょ
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江戸川乱歩 怪人と少年探偵[#ページの左右中央] 作者のことば 怪人二十面相はまほうつかいのようなふしぎなどろぼうです。二十のちがった顔を持つといわれる変そうの名人です。名探偵明智小五郎(あけちこごろう)の助手小林(こばやし)少年と少年探偵団の団員たち
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江戸川乱歩 かいじん二十めんそう1 ある日、しょうねんたんていだんのぽけっと小(こ)ぞうは、ひとりで、さびしいのはらをあるいていました。 ぽけっと小ぞうは、小がっこう四ねんせいですが、ようちえんのせいとみたいにからだが小(ちい)さくて、ぽけっとにでもはいりそうだとい
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江戸川乱歩 かいじん二十めんそう1 あるおひるすぎのことです。 東京のまつなみ小学校のこうていで、みんながあそんでいました。 休み時間なので、一年生から六年生まで、かけまわったり、キャッチボールをしたり、きかいたいそうをしたりして、あそんでいたのです。 「あっ、ヘ
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江戸川乱歩 怪人二十面相はしがき そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。 「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふ
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江戸川乱歩 海底の魔術師沈没船の怪物 日東(にっとう)サルベージ会社の沈没船引きあげのしごとが、房総(ぼうそう)半島の東がわにある大戸(おおと)村の沖あいでおこなわれていました。 その海の底に、東洋汽船会社の千五百トンの貨物船「あしびき丸」が沈没しているので
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江戸川乱歩「珍らしい話とおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」 ある時、五、六人の者が、怖い話や、珍奇な話を、次々と語り合っていた時、友だちのKは最後にこんなふうにはじめた。ほんとうにあったことか、Kの作り話なのか、その後、尋ねてみた